平均初婚年齢と生涯未婚に関する研究課題(2020724日@
  結婚のタイミングが高年齢にシフトし平均初婚年齢が上昇すると50歳時未婚割合が高くなることは避けられず、生涯未婚(結婚しないまま終わる人)が増える。このことを年齢別初婚率の分布が正規分布確率に近いものであることから説明するという試みはそれなりにうまく行った。しかし、わざわざ正規分布確率を持ち出さなくも、平均初婚年齢が高くなる=累積初婚率の増加が遅くなる=50歳時の累積初婚率は低くなる=50歳時の未婚割合(1−累積初婚率)は高くなるということなので基本的に自明のことを述べただけという気もする。結局、科学的知見が、自分で立てた命題を、事実関係を元に検証し、その通りであることを証明するという、トートロジー(同語反復)的なものであるとすれば、これも仕方のないことなのかも知れないし、あながち無意味だともいえないだろう。
  ただし、同じ平均初婚年齢24歳レベルであっても、戦前生まれまでの生涯未婚割合は40%から12%近くまで低下してきた。このことからもわかるように、平均初婚年齢が上昇すれば必然的に生涯未婚は増加するが、生涯未婚の水準が平均初婚年齢のみで決まる訳ではなく、出生コーホートの性比、30歳(中央年齢)までの累積初婚率の高さ、出生コーホートの歴史的事情など、他の要因も少なからず影響すると考えられる。
  とりわけ、人口学的な視点からは、以下3つの要因の検討が必要だと思う。
1)年齢別死亡率(あるいは平均寿命):分母の年齢別人口の変化で直接的な効果は補正されているが、平均寿命が50歳未満であれば、累積初婚率の上昇は50歳に達する前に大幅に減速するはずなので、当然、生涯未婚の水準は高くなると考えて良い。逆に50歳以上であれば、平均初婚年齢が高くなるほど、平均余命が短くなる=結婚期間は短くなり、イマサラ結婚する意味が無くなるといった効果も考えられる。
2)法律婚と事実婚(結婚届の有無)の関係:たとえば、中世ヨーロッパでは封建領主や教会による許可制だった。また近年の同棲の増加、どのような場合に結婚届を出すか、出さないか、結婚に変わるパートナーシップ制度の影響、同性婚の合法化など。特に出生との関係では、婚外出生(非嫡出子)の法的地位が重要な要素となるだろう。
3)年齢別出生率(特に第1子の平均出生年齢):結婚の主要な動機が自分の子どもを持つことにあるとすれば(この点についての分析も必要だが)、平均初婚年齢(累積初婚率)と第1子平均出生年齢(第1子累積初婚率)の間には強い関係があるはずだ。この場合、平均初婚年齢⇒第1子平均出生年齢という影響とは別に、第1子平均出生年齢⇒平均初婚年齢に影響するという逆の関係があることも、十分、予想できる。つまり、1)や2)との関係も含め、子どもを持つことを考えた場合に、子どもを持てないか、持てても育てられないか、あるいは子どもの成人までに自分が先に死ぬ可能性がある場合は、結婚しないことも考えられる。つまり、第1子平均出生年齢が、累積初婚率のタイムアップ年齢(上昇停止の年齢)を規定する効果を検討する必要がある。
  おそらく、このような人口学的な要因以外にも、さらに様々な要因が影響しうると思われるが、具体的には、平均初婚年齢と生涯未婚の関係についての国際比較研究(日本とドイツ以外、特にアメリカ、フランス、北欧などの緩少子化国の非移民系人口、韓国、台湾、中国、シンガポールなど、東アジアの超少子化国)や歴史的な比較研究(日本の明治以降、江戸時代以前、ヨーロッパの近代以降、中世、古代など)を調査分析する必要があるだろう。
  また主要な変数を精査し数値モデル化すれば、結婚(というよりもペア形成)についてのしっかりした理論モデルや予測モデルが作れるはずなので、それらをベースラインとして、結婚の分析を進めれば、新しい変動要素(たとえばジェンダー意識の多様化、パートナシップの多様化、離婚・再婚率の上昇と平均結婚期間の短縮など)の影響などもより定量的に捉えることが可能となるだろう。

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