すべては入試から始まる
★大学入試って何だ?
一般に外部の方は、大学というのは入学式から始まると思っているのですが、現場の素直な感覚からすると、まず入試があって、すべてが始まる。というか、大学のお仕事の中で、入試というのがかなりのウエートと占めています(特に近年は)。
で、以前、入試企画を担当していた時に、文部科学省の「大学入試」の定義を読んだことがあるのですが、これによりますと、「各大学は、その大学で学ぶに相応しい能力をもった学生を選ぶために試験を行わなければいけない」ことになっています。
というわけで、「いーじゃん、空いているんだから」と、「誰でもどうぞ、全員合格」とか、くじ引き、先着順は認められておりません。
しかも、入学者数は、いわゆる文部科学省定員という形で、大学・学部・学科認可申請時に決められていて、一般に上限は、この1.3倍までとなっています。これを越えて入学を許可すると、私立大学では私学助成金が減額ないしは0になってしまいますし、国立大学の場合は始末書もの?でしょう。じゃあ少なければ良いのかというと、これもお目玉ものでマイナス3%までは許容範囲ですが、これを越えるとペナルティーがありますし、ましてやマイナス50%が続くと、認可取り消しお取り潰しで、お家断絶の危険性もあります。
だから、18歳人口が毎年減少してゆく中で、大学は大変な訳です。ちなみに、私が卒業した早稲田大学など設立の古い大学は、大学・学部・学科認可申請など遙か昔ですので、定員数も多い。逆に歴史の浅い御山の上大学のようなところは、申請段階で定員数を非常に小さく抑えられていて、いやでも少人数教育に徹する以外に道はないという傾向が見れます。
で、話は戻りますが、ただし、この大学で学ぶに相応しい能力をどう定義するかは、大学の裁量に任されているので、特に、ここ十年くらいは、受験生獲得競争もあり、入試の多様化が進んでいます。
この結果、大学入試の時期と種類が多くなり、多くの私立大学は、殆ど一年中、入試をやっている状況です。ただし、大学入試の実施は文部科学省への届け事項なので、少なくとも前年度には、すべて内容とスケジュールを決めなければいけません。だから、入試企画を担当すると、大変なのです。
で、どんな入試があるのか、御山の上大学の場合を見ると、大きく推薦入試と一般入試に分かれます。
推薦入試の特徴は、実施時期が早い(通常、前年度の11月頃)、何らかの形の推薦なので基本的に入学辞退はない(関西では有りの場合も)という点で、大学にとっては有り難いものです。
この推薦入試の中には、
●付属推薦:大学の付属高校がある場合、そこからの推薦入試。これは確か入学定員の2分の1が上限です。学生の選抜は基本的に送り出す高校が行いますので、こちらはお待ちしてしている形になりますが、あまりトンチンカンな志望だと入学後が本人が大変ですから何度も説明会を開き相談に乗ります。
●指定校推薦:大学が指定校を募集し、登録していただいた高校の校長先生の推薦で面接を行います。基本的に校校長の推薦を尊重しますので、余程、面接で問題がない限り(定員枠をオーバーしなければ)合格になります。が、推薦条件に、評点平均という高校の成績基準があり、これをクリアーしないと、受けられません。だいたい、評点平均3.5というのがデファクトスタンダードなんだけど、これは高校のレベルによっては高すぎたり、低すぎたりで、正直なところ、ない方がいいのだけど、高校の方で設定してくれないと困る(教育上、示しがつかない)という事情があるようです。
●自己推薦:これは昔はなかったのですが、最近は非常に一般化していて、それも当初は一芸(イチゲイ)入試など、何かずば抜けた特技が必要だった(たとえば歌手でCDを沢山出しているとか、映画女優として活躍、オリンピックで金メダルを取れそうとか)のですが、段々と形骸化して、現在では、「強い勉学の動機・意欲がある」という条件を何らかの形で証明しクリアできれば基本的にオーケーです。当然ですが評点平均などの条件も入りません。ただし、うちの大学の場合は論文と面接があり、そうは言っても(字が書けないとか?)入学後に本人が挫折する危険性が高い場合は落としますね。
●帰国子女・社会人・地域推薦・留学生:この他に、帰国子女の子のための入試や、一度、高校を卒業して社会に出て働いた人のための社会人入試、地域の自治体・団体の推薦を受ける人の地域推薦などの入試があり、基本的に自己推薦と同じ要領ですが、留学生入試の場合だけ、日本語のテストがあります。
推薦入試の定員は、付属推薦も含め、入学定員の50%までとされており、残りは、逃げるのありの自由競争、一般入試になります。
一般入試も基本的に多様化が進んでいて、ちょっと収拾がつかない状況ですが、
●AO(エーオー)入試
新顔で、近年急速に広がっているのがAO(エーオー)入試というものです。これは元々慶應義塾大学がアメリカのマネをして始めたもので、正式にはAdmissions Office(アドミッションズオフィス)の略で、基本的には大学の方から学生のところに出掛けて行き、一回限りの競争ペーパーテストなんかじゃあわからない、学生の能力を、面接などを通じて引き出し、生き生きとしたやる気のある学生を入学させることを目指した制度です。ただ、実態は、一般入試の枠の中にありながら、推薦入試よりも早い時期から実施可能で、定員枠も一般入試内なので、これは便利だ!、ということになり、実質的に青田刈り的状況になっており、高校サイドの評判は、あまり良くありません。だいたい、本場アメリカのAdmissions Officeは、それ専門の教員や職員、契約職員を配置し、かなりのお金とエネルギーを費やして行うはず(?)なのですが、日本の場合は、そのような教職員スタッフのゆとりはないでの、すべて片手間となり、かなりシンドイ状況です。
でも高校生にとっては早く結果が出るし、基本的に学力試験はないので、ラクショーという感じで、人気があるみたいです。教員サイドとしても、まあ入学前にお会して、縷々ご説明申し上げ、色々と入学後の事もアドバイスできるし、学力には少々?問題があるかも知れないけど、将来伸びそうな子を見つけることができるので、私個人としては、まあイイかも!という気もします。が、担当される先生は大変で、ハイシーズンは毎週末AO(エーオー)で青息吐息、可哀想です。
●センター入試
これも、ここ数年急速に広がっていて、不況もあり授業料の安い(っていっても国民の税金だろう!)国公立志願者が急増する中、いよいよ私学もセンター入試を無視できなくなり、これに相乗りする形で行われています。センター入試は、選び抜かれた、入試に詳しい先生方による良質な全国共通問題というのが売りですが、各大学・学部・学科にはそれぞれの事情がありますから、スタンダードな問題が果たして良い問題かどうかは疑問です。すべてマークシートというのも気になるところですね。でも、まあ受験生が希望する入試科目が、高校サイドの教育指導要領の変化で、際限なく増えてしまい、個々の大学がそれにすべて対応するのは殆ど不可能なので、そういう点では便利です。また受験生にとっても、各大学ごとに何回も色々な学力試験を受けなくても、センター入試の結果だけで(特に私学の場合は殆ど二次試験をやりませんから)複数の大学を掛け持ちできるのでラッキーですね。ただ問題は、その結果、非常に受験生の逃げ率が高くなり、私学の場合、実質的にはセンター入試合格定員枠の10倍ぐらいの合格を出さないとダメなので、これは試験をしているというより、ザルで掬っているような荒っぽい話になります。特に恐いのは入学するまで、本人とは受験会場でさへお会いしない(入試会場が自分の大学になるとは限らないから)訳で、ちゃんと大学のことを分かって来てくれるのか不安になります。入学する方だって、第X次志望で、仕方なく入学するというのでは、元気が出ないでしょう。でも、まあ、いずれにせよ、私学の場合、この入試をメインに据える度胸のある大学はありませんから、多様な(毛色の違った?)受験生の確保という意味では有意義かも知れませんね。
●一般学力入試
ようやく登場しましたが、これが昔懐かしい大学入試の元祖で、私やお父さんお母さんぐらいの年代にとって、一番、ポピュラーで当たり前の常識、受験地獄とか、受験戦争などという言葉がマジで使われた時代の名残です。一般入試の特徴は、よく言えば公平、悪くいえば機械的なところで、どんな学生であれ、点数順に並べて、上から順番に逃げ率も勘案した範囲の子を合格にすれば良い。血も涙もないし、だいたい1回限りの試験で、その学生の能力なんてわかるのか?と言いたいけど。でも、面接だってね、主観が混じるから。こっちの方がクールではあります。実施する側は問題作成が大変だけどは、問題さへ作れば、実施は他の入試より遙かにラクです。
しかし、これだけ18歳人口が減少して一般入試の倍率が低下すると、逃げ率を含めると、殆ど全員合格になり、あるいは、まだバッサリ切り捨てる余裕のある大学だって、入試成績のリストの長さは一昔前とは比べるべくもないはずで、もし仮に入試でいい点を取るということが、その大学で学ぶに相応しい能力の証明であるのなら、すでに機能しなくなっていると考えて良いでしょう(まあ競争試験ではなく定員など無視して、絶対評価で一定水準以上の受験生のみ合格なんていう、スゴイことをやっている大学があれば別ですが)。
それでも、大学というところは保守的なところなので、まだまだ一般学力入試が一般入試定員の主流であることは確かです。でも、たとえば複数受験日制(好きな受験日に、何度でも同じ学科を受験して、その偏差値か、一番よくできた点数で判定)など、色々なバリエーションも出て来ているので、急速に信頼度が低下していることは否めません。だいたい、この方式では、点数の取れる子はいくつもの大学に合格して、他の子を弾き飛ばしてしまうので良くないと思います。
●特別選抜入試
え?まだあるの、と自分で書いていても呆れますが、私立の一般学力入試が2月には終わり、3月に入ってセンター入試関係の国公立の試験もケリがついてしまった最後の段階で、特別選抜入試というのがあります。口の悪い先生は(誰だ?)「落ち穂拾い入試」とか「駆け込み入試」とかいっていますが、要するに、4月の入学シーズン開始目前のラストチャンス入試です。通常、学科試験はなく、小論文(あるいは適性試験)と面接です。実は、私は個人としては、この入試がイチバン好きです。受験生も、もはやココシカナイ!と覚悟ができていますし、面接する側も、思わぬ掘り出しモノに出会うという楽しみもあり、実にドラマチック。というか、入試が終わって、まだしっかり顔を覚えているうちに入学して来るので学生の印象が強く残るというだけの話かも知れないけど。でも、とにかく出会いという点ではサイコーだよなあ。
●大学入試は機能しているのか?
で、こういう風に書いて来ると、特に、かって受験戦争を戦った元戦士の年代の方や、高校の先生などは、大学入試はちゃんと機能しているの?と不安になると思います。あるいは、先日も卒業研究を指導している4年生が、ふと、「ひょっとしてウチの大学って、誰も入れるんですか?」とマジに聞くので、「いま頃、気づいてももう遅いよ」と慰めたのですが。でも、それは冗談で、昔とは違った意味であれば、うちの大学の場合は、十分、機能していると思っています。確かに、高校受験的な標準的学力という点では、かなり問題のある子も多くなりしましたし、その分、教える方は大変ですが、学生のやる気や、入学後の成長には目を見張るものがあります。何より偏差値で輪切りになって打ちひしがれて入学して来る学生が殆どいなくなり、ラッキー!って感じで明るく爽やかになったのは、大変な進歩です。そればかりではなく、ちゃん大学に入って、これをやろう、あれをやろうという動機を持った元気印も増えました。
これは考えてみるとわかるはずですが、私などが受験戦争をやっていた頃は、とにかく、点数、点数でしか大学を見てなかったし、合格がムズカシイ大学ほどアリガタイと思っていたのですが、現在は、そういう詰まらないミエや偏見がなくなり、本音で学校を選べるようになっています。もっとも、それだけに、受験も落とすためのものでははく、拾うためのもの、受験生のお話を聞いて相談に乗ってあげて、一緒に、大学生活における様々な可能性を見つけてあげるものに変わって来た訳です。もっとも、その分、入試も大変で、昔の、大学の先生は、ほんとラクだったのだろうなあと、うらやましくなります。

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